天女館跡地の日記帳
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このまま消えてしまえれば、どれだけ楽だろう。
胸に込み上げかかった熱い激情の塊を堪えて蛇口を捻る。
壁のフックに掛かっていたシャワーノズルから
あふれ出した水流に顔を突っ込んだ。
泣くわけにはいかない――万が一誰かに知られたら、心配させてしまうから。
泣くわけにはいかない――あの母親の息子に、この家の中で泣く資格はないから。
泣くわけにはいかない――。
(真っ赤に染まったこの手で、何を今更……)
息を止めたまま温かな水に顔を洗わせて、
呼吸を堪えるために左の肩に右手の爪を立てる。
このまま肌を突き破って、母親から受け継いだ分の血だけを流し切れたなら、
圧し掛かった罪悪感は薄れるのだろうか。
自分自身に感じる嫌悪感も少しは減るのだろうか。
ついに、酸素を求めた体が跳ねて反り返った。
浴室の白い天井が目に飛び込んでくる。
すぐに瞼を閉じたけれど、堪える間も無く眦から一筋、顔に残ったぬるま湯よりも熱いものが零れていった。
(違う。違う、違う)
何度も何度も胸中で繰り返した。
悲しくて泣けたんじゃない。
懺悔に震える涙じゃない。
息苦しさに喘いだ自分の体が反射的に落としたものだ。
荒い呼吸で肺に空気を取り込む間に、滲みそうになる嗚咽を噛み殺す。
「……何で、僕は……」
今またこの世界に、生まれ変わったのだろう。